こんにちは、はる(@haru_nutriology)です。
これまで、妊娠のために脂質がいかに重要か、ということを解説してきました。
その1では、脂質がタンパク質と並んでなぜ、妊娠に必要なのか
その2では、脂質にはどんな種類があり、何を取ればいいのかそれぞれ解説しました。
今回は脂質のなかでも特に悪者と誤解されがちなコレステロールについて解説します。
結論:妊娠に必須なホルモンはコレステロールが原料、卵をたくさん食べよ(個数制限なし)
脂質に対して何度も焦点を当てているのは、単純にめちゃくちゃ妊娠に大事だからです。妊娠に必要な卵胞ホルモン、黄体ホルモンなどの性ホルモンはコレステロールから作られます。
大事な割には脂質はよく知られておらず、「取る過ぎると太る」くらいの認識しかありません。
そもそもコレステロール(cholesterol)とは、胆汁を意味する”コレ(chole)”と”ステロイド”という分子骨格の意味をあわせたものです。名称の由来は最後まで読めば、しっくり来ると思います。
この記事では、これからコレステロールは妊娠に限らず、身体に必要なものだよ、といった話をしますが、必ず反対意見を言う人がいます。
まず、コレステロールが今の世間の常識となった大本の「事実」から出発して議論したいと思います。
最初のとっかかりで思い込み、勘違いがあるとその後の全ての論点がズレます。
コレステロールの誤解
悪者イメージの原因は100年以上前のお粗末な実験
ロシアの病理学者、ニコライ・アニチコフは1908~1910年にかけてウサギに卵を食べさせる実験をしたところ、血中コレステロール値が上昇しました。
また、動脈硬化ができた血管部分を調べるとコレステロールが沈着していたことから、
動脈硬化の原因=コレステロール
と結論付けました。
さて、このには重大な欠陥があります。
ウサギは草食動物であり、草(炭水化物)しか食べません。コレステロールなどの脂質は食べていないのだから、血中の濃度を調整する機能はありません。
このアニチコフの実験のあと、困った鶏卵業界は真偽を確かめるために、人間によって卵を1日にいくつも個食べました。ところが血中コレステロール値は一切上がりませんでした。
人間は普段から脂質を食べるので、当然調整能力が備わっているからです。
後の追加実験でも、コレステロール犯人説は正式に否定されました。
動脈硬化学会も、2015年のガイドラインから、1日の卵の摂取上限を撤廃しています。
しかし、このマイナスイメージは100年以上たった今も、受け継がれています。
そもそも1日必要量の80%は体内で合成
加えて決定的なのが、コレステロールの必要量のうち、80%は体内で作られます。食事から得ているのはたったの20%。
大部分を自分で作っているのに、食事から脂質を控えても、どんな意味があるのか疑問です。
さらに、肉を一切食べない菜食主義者にも動脈硬化は発生します。(コレステロールは植物には存在しないので摂取量はほぼゼロのはず)
動脈硬化=コレステロール原因説は完全に破綻しています。
コレステロールの役割
では、コレステロールにどんな役割があるかというと、細胞膜の材料となることです。細胞内は水分で満たされているため、膜で覆って形を保つ必要があります。水に溶けない「あぶら」で囲んだものが細胞膜であり、膜の構成要素の1つがコレステロールなのです。
しかも、役割は細胞膜の材料だけではありません。
血管壁を修復する~脂質の運び屋LDL&HDL~
血管の細胞にも当然、脂質で囲まれた細胞膜があります。これが傷めば取り替える必要があり、コレステロールはその材料となり、傷んだ血管壁を修復してくれます。
ここで、どうやったらコレステロールを必要な箇所に届けられるか考えてみましょう。
栄養は全身の細胞の隅々まで運ばれてはじめて意味があります。
血液の役目はヘモグロビンで酸素を運ぶだけじゃなく、栄養を人体37兆個の細胞の隅々まで行き渡らせています。
だから、すべての細胞は故障部分・古くなった部分が絶えず置き換わることが可能な訳です。
しかし、血液と脂肪は水と油で混ざらないから、そのままだと血液で運べません。
※水に溶ける糖質とタンパク質はそのまま運べます。
この問題を解決するのはタンパク質です。タンパク質なら脂質とも水とも融合できるので、コレステロールをタンパク質の殻で覆ってしまえば運ぶことができます。
この(血液中での)搬送用のタンパク質が脂質の周りにつく多さにより、比重が変わります。
タンパク質は脂質よりも比重が大きい(密度が濃く重い)ので、
タンパク質が少ないと、低い密度に ⇒ Low Density
タンパク質が多いと、高い密度に ⇒ High Density
ということになります。
また、タンパク質(Protein)がくっついた脂質(Lipo)をリポプロテイン(Lipoprotein)というため、
コレステロールを取り巻くタンパク質の割合が多いか少ないかで
HDL = High Density Lipoprotein 善玉
LDL = Low Density Lipoprotein 悪玉
という、健康診断でよく聞く名称となります。
機能としては、
細胞にとって必須なコレステロールを血流にのって届けるのが、LDL
余分なものを回収するのがHDLです。
こうみると、どちらも必要な機能であり、善玉悪玉と区別する意味がないでしょう。
性ホルモンの材料
妊娠に必要なのはホルモンです。ホルモンの語源はギリシャ語のhormān「刺激する」、「興奮させる」です。特定の細胞を刺激して作用させるからかと思います。ホルモンの特徴は大きく2つです。
①特定の臓器や細胞ではたらき、様々な代謝調節を行うこと
②きわめて微量であること
そして、タンパク質からできているものと脂質からできているものがあり、コレステロールは後者の材料となります。
生殖器で作られるホルモンのうち、精子を作るための男性ホルモンも、性周期・排卵等の妊娠に必要な女性ホルモンも「脂質系」です。
百聞は一見にしかず、下記の図を見てください。
伝えたいのは、化学式の複雑さではありません。コレステロールも性ホルモンもかなり似ていところに着目してください。構造が似ているから、コレステロールから妊娠に必要な性ホルモンに変換できるのです。
また、コレステロールから黄体ホルモンへの変換にはビタミンEが必要となります。
ここにも妊娠ビタミンであるビタミンEの重要性が垣間見えました。
過剰なLDLは胆汁酸となり、脂質の吸収に再利用される
LDLは細胞に必要なコレステロールを届ける運び屋ですが、当然過剰な状態はよくありません。
ところが、過剰分は胆汁酸に変換され、十二指腸に捨てられて脂質が消化されるのを助けてくれます。コレステロール(cholesterol)のコレ(chole)は胆汁の意味でした。
反対に血中LDL濃度が下がると再び小腸から再吸収し、濃度を一定に保ちます。
ここにも生体の合目的性という冥利があります。
そして、過剰LDLが胆汁酸に変換するにはビタミンCが必要になります。
コレステロール不足による数々の弊害
脂質を制限すると性ホルモンが作られない
コレステロールは性ホルモンの根源です。足りなくては当然、男性ホルモンも女性ホルモンも作れず、妊娠に不利となるということです。
妊娠を考えるなら脂質を過度に制限するのは絶対にいけません。
ダイエットで過度な脂質制限を行う女子の生理が止まる原因も脂質制限によるコレステロール不足です。
コレステロール不足はうつ病、精神疾患とも関連
コレステロールは神経伝達にも大きく影響します。コレステロールは細胞膜の材料という話をしましたが、身体の部位別にコレステロール量をみると、神経細胞にかなりの比重があります。
大事な神経細胞でコレステロールが足りずに、材料不足になってしまったら神経伝達がうまく行くなってしまうでしょう。
また、抗ストレスホルモンもコレステロールから生成されるため、ストレスに抗えなくなります。
これらが、精神疾患やうつ等につながる原因の1つではないでしょうか。
産婦人科医、宗田哲男先生の著書「ケトン体が人類を救う」ではこんな記述があります。
大学の精神科の先生とJR東日本が協力して、JR中央線で自殺者を調べたところ、9割が55~60歳で、ほとんどが男性だった。それが見事に全員、コレステロール降下剤を飲んでいた。
宗田哲男「ケトン体が人類を救う」
降下剤はコレステロールの生成を阻害するために神経細胞がうまく作れず、神経に異常をきたしたのかも知れません。
おわりに
コレステロールは細胞膜の材料となり、血管壁を修復するとともに性ホルモンとなって妊娠や健康に深く関わる必須の強い味方です。
生命活動に害あるものであれば、これから生命へと変身するための栄養の塊である卵に豊富に含まれているのはおかしな話です。脳は脂質に富みますが、30%はコレステロールです。
コレステロールが血栓を作るなら、高齢者でなくても人類はみな脳卒中だらけになってしまうでしょう。
”生命活動に無駄はない”
生化学、生命科学を学ぶ人達の共通認識です。
30億年以上かけて複雑な進化をしてきた生命の機能と、100年以上前のお粗末な実験、私はどうしても前者に敬意を払わざるを得ません。
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